人工妊娠中絶手術

人工妊娠中絶手術とは

人工妊娠中絶手術とは、何らかの理由により妊娠を継続できないときに人工的に子宮の中の内容物を取り出す方法です。人工妊娠中絶手術を受けられるのは、法律により妊娠22週未満と定められております。妊娠初期(11週まで)とは手術方法が異なるので注意が必要です。妊娠初期の場合は、器具によって掻きだすソウハ法と、吸引によって吸い取る吸引法とがありますが、当院ではソウハ法にこだわり手術をおこなっています。当院では11週までの人工妊娠中絶手術をおこなっており、それ以降は受け付けておりませんのでご注意ください。

中絶をおこなう場合早い時期のほうが負担は少なくなりますが、妊娠周期の数え方は最終月経に起算されます。したがって、月経が遅れたことに気づいたころにはすでに妊娠4週から7週になっていることがほとんどですので、人工妊娠中絶手術をお考えの方は早めの来院をお勧めします。また市販の妊娠判定薬は、正常妊娠の場合はかなりの精度で判定しますが、子宮外妊娠等の異常は見逃してしまう場合があります。生理が遅れているけれども妊娠検査薬では判定されない場合は必ず病院で確認するようにしてください。

人工妊娠中絶手術は母体保護法という法律で守られています。手術を受ける場合は、相手がわからないケース、相手が死亡や病気等で意志を確認できない場合を除いて配偶者あるいは相手男性の同意書が必要です。当院では未成年の方の場合は親権者の同意書も一緒にいただくことにしております。ご了承ください。

人工妊娠中絶手術の流れ

以下に当院での人工妊娠中絶手術の流れをご説明します。

来院

まずはご相談のためにご来院ください。受付では保険証をご提示いただきます。一部のケースを除き人工妊娠中絶手術では保険適応とはなりませんが、念のため保険証のご持参をお願いしています。

問診票記入

これまでの病歴やお体の状態についてお伺いします。できるだけ最終月経をご記入ください。また診療に関する希望がある場合はお申し出ください。

診察

問診票をもとに診察をおこないます。最終月経の開始した日などの問診もおこないます。診察では妊娠である場合は、正常妊娠かどうかの確認をし、超音波検査(エコー)などの検査によって妊娠の正確な週数を診断します。人工妊娠中絶手術を受けるかどうかお悩みの方は一度ご帰宅いただいています。

手術の予約と検査

手術を受けることがお決まりの場合は当日予約することが可能です。手術日は原則的には月・水・金曜日の午後に行っていますが、患者さんの要望に応じて柔軟に対応するよう心がけています。手術日は最短で翌日から予約することができます。事前に手術前検査(血液検査など)が必要となります。血液検査では、梅毒・B型肝炎・C型肝炎等の感染症や貧血検査をお調べしております。また、性感染症であるクラミジアに感染している方が人工妊娠中絶手術を受ける場合、腹膜炎という炎症が引き起こされる可能性があります。そのため必要に応じて、内診検査で子宮頸部癌検査とクラミジア検査をおこなうことがあります。

同意書について

看護師から手術に関する説明をしますので、不安なことがある方はこの際に何でもご相談ください。また、母体保護法により人工妊娠中絶手術を受ける場合、配偶者または相手の男性の同意が原則として必要となります。手術を受けられる方とそのパートナーのご住所、氏名等を本人記入のうえご捺印いただきます。事情によりお相手の分の同意書がご用意できない場合は、事前にご相談ください。

前日

手術前日夜12時以降は、飲んだり食べたりしないでください。またお酒も禁止です。それ以外はいつも通りに過ごしていただいて構いません。しっかりと睡眠をとるようにお願いします。

当日

出産経験のある方(経産婦)と出産経験のない方(未産婦)とでは来院時間が異なりますのでご注意ください。出産経験のある方(経産婦)は手術当日の朝9時にご来院していただきます。子宮の入り口をゆっくりと負担なく広げていくために、「ラミセル」という器具を子宮口に挿入する処置をおこないます。これにより手術がしやすくなるため、出産経験のない方(未産婦)の場合はこの処置を事前に受けていく必要があります。
出産経験のある方(経産婦)は子宮口に柔軟性がありますのでこの処置は必要ありません。午後1時30分にご来院ください。

当日前処置について

出産経験のない方(未産婦)は、人工妊娠中絶手術がおこないやすくするため子宮頸管と呼ばれる子宮の入り口を広げる処置を受ける必要があります。実際には、膣の中を診るためのクスコーと呼ばれる器具で膣を広げたのちに、ラミセルと呼ばれる細いスティック状の器具を子宮頸管に直接挿入します。ラミセルは鉛筆1本分ぐらいの太さですがスポンジを固めたような素材となっているため子宮頚管に挿入されると、子宮組織周囲にある水分を吸って徐々に膨らんでいきます。その膨らむ力を利用して、自然に子宮口を押し広げていくのです。ゆっくりと広げていくことで、体に無理な負担をかけず子宮口を傷つけずに手術を受けられるようになります。未産婦の場合、子宮頸管部が固く閉じていることがほとんどです。とくに若年者の場合は痛みを感じやすいので、必要に応じ前処置の前に痛み止めを使用していただいています。

手術

中絶手術は静脈麻酔のもとで眠った状態でおこないますので痛みの心配はありません。中絶手術時間は約10分程度で、ソウハ法という安全かつシンプルな方法で行われます。
術後2~3時間安静にし、経過を診させていただきます。ほとんどの方がうとうととされて過ごされます。帰宅前に出血など異常がないかを診察し、問題なければご帰宅いただきます。手術後はなるべく安静にしていただきますが、問題がなければ当日または翌日から軽くシャワーしていただくことができます。翌日は激しい運動は控えていただきますが、デスクワーク等の軽い労働であれば問題なく、ふつうに過ごしていただくことができます。

手術後注意事項

手術日当日は自転車やバイク・自動車の運転ができません。
術後当日は、なるべく安静にしてお休みください。
問題なければ、当日または翌日から軽いシャワーが可能です。
翌日から軽い作業が可能ですが、スポーツ等はお控えください。

※人工妊娠中絶手術後2~3日目後に一時的な出血がみられる場合があります。これは手術時に子宮内に溜まった血液が子宮の動きとともに流れ出してくるためで、生理現象ですので心配はありません。一時的な下腹部痛を感じることもありますが、たいてい鎮痛薬の内服で収まります。
※強い腹痛が続いたり、鮮血が多量に出たりする場合はご連絡ください。また発熱がある場合も放置せずに連絡をしてください。

再診

約1週間後に再度ご来院いただきます。術後順調に経過しているかどうか診察し、問題なければふつうに過ごしていただいて構いません。運動や性交渉もこの時期から可能となります。また今後も妊娠を望まない方の場合、適切な避妊方法を指導いたします。

人工妊娠中絶手術と流産手術の違い

人工妊娠中絶手術と流産手術は異なります。胎児に対して人工的に妊娠を中断させる処置を人工妊娠中絶手術といいます。それに対して、胎児の発育がみられなかったり、母体内で死亡してしまったり等の理由で、人工的に体外に出す場合を流産手術と呼びます。処置自体は同じであってもその目的によって人工妊娠中絶手術と流産手術とは異なるというわけです。

人工妊娠中絶手術と母体保護法

人工妊娠中絶手術は、母体保護法という法律により定められており、胎児が母体外では生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児およびその付属物を母体外に排出することであると規定されています。
法律上、手術はどんな時でもおこなえるわけではありません。一定の条件を満たした場合のみおこなうことができ、その時期は妊娠22週未満と定められています。

母体保護法(抜粋)

第1項

都道府県の区域を単位として設立された社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人および配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶をおこなうことができる。

第1号 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがあるもの。
第2号 暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの。

第2項

前項の同意は、配偶者が知れないとき、若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者が亡くなったときには本人の同意だけで足りる。

妊娠週数の数え方

妊娠週数の数え方は、受精後胎齢と月経後胎齢の2種類あります。前者齢は受精初日を1日目として、満日数、満週数であらわす方法で、後者は最終月経初日(前の生理の最初の日)を1日目として、満日数または満週数であらわす方法です。日本では後者の月経後胎齢を用います。したがって、最終月経初日を妊娠ゼロ週ゼロ日目と起算してカウントすることになります。

妊娠初期の人工中絶(妊娠11週まで)

11週までを妊娠初期といいます。手術は器具を用いて、胎児とその付属物をかき出したり吸引したりする方法です。静脈麻酔でおこなうことができ日帰りでの手術が可能です。

妊娠中期の人工中絶(妊娠12週から22週まで)

法律により人工妊娠中絶手術を受けられるのは22週までと定められています。これ以降はいかなる理由があっても手術を受けることはできません。この時期では、胎児が大きく成長しているため初期のようにかき出したり吸引したりすることができません。したがって人工的に陣痛をおこし、出産するのと同じように胎児と胎盤をまるごと出すことになります。その後、初期と同じように残った組織をかき出すことになります。出産同様の手術になるため、場合によっては数日必要となることもあります。体にとっても大きな負担となることは間違いありませんので、手術を希望する方はなるべく早めに受けられることをお勧めします。なお、当院ではこの時期の手術には対応していません。